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日本語と英語のズレ(4)《執筆A.Y.》

「手」とhand、「腕」とarm

英和辞典では一般に「hand=手」、「arm=腕」となっています。

しかし、日本語の「手」は(手首から先の部分だけでなく)肩から先の部分を指すことができるのに対して、英語のhandは手首から先の部分を指し、そのようなことはありません。

一方、「腕」は肩から手首までの部分であって、handの部分までは含みませんが、armはshoulderからhandまでの間またはhandを含んだ部分を指します。

だから、例えば「手を伸ばす」を英語にするとstretch one's armとなり、handは用いませんし、She welcomed us with open arms.は「腕」を使わないで「彼女は両手を広げて私たちを迎えてくれた」と訳したほうが自然です。

「足」とfoot、「脚」とleg

英語では足首からつま先までをfoot、ももの付け根から足首までをlegと区別しています(ただし、legにはfootが含まれる場合があります。また、legはthigh(太もも)と区別してknee(ひざ)からfootまでの部分を指す場合もあります)。

日本語でも前者を「足」、後者を「脚」と書き分けることがあり、一応foot/legの区別と「足」「脚」の区別は対応しているといえます。

しかし、一般的には「足」と「脚」の両方の部分の総称として「あし」と呼ぶのが普通です。

ですから、例えば「彼は足を組んでいすに腰掛けていた」はHe was sitting on a chair with his legs crossed.とlegを使うことになりますし、「電車に乗り込もうとしたとき足を踏まれた」であればSomebody stepped on my foot just as I was getting on the train.のようにfootを使うことになります。

「唇」とlip

Some men grow hair on their top/upper lip.のような用法を見ると、口の縁の薄い皮で覆われたやわらかい部分よりも広い範囲をlipが指しうることがわかります。

この場合は上唇のまわりで「鼻の下」の範囲を指しています。

もちろん、He put his finger to his lips.ではlipは日本語の「唇」と同じ部分を指しています。

つまり、英語のlipは、日本語の「唇」と、その周辺の上下の部分(特に鼻の下)を含むのです。

「鼻の下」という同じ領域を英語ではlipの延長としてとらえ、日本語では鼻を基準にしてとらえているという違いが見られるわけですが、その原因は何でしょうか。

それについての興味深い考察の一つによれば、一般に西洋人は鼻の下が短くて、極端な場合には鼻の下が非常に短くて、唇と同一視して差し支えないぐらいのことがあるのに対して、日本人を含む東洋人は鼻の下が長くて唇とは別個の領域と見やすいためではないか、ということです。

また、語の拡張用法というものが考えられます。

Aという領域を指す語を用いて、Aに隣接する周辺の領域を指すのです。

lipで鼻の下を指すのはその一例と見ることができます。

このように見ると、lipが鼻の下を指すのは、あくまでも派生的な拡張用法とするのが妥当かもしれません。

ちなみに、この用法は修辞学でいうmetonymy(換喩)の一つです。


「日本語と英語のズレ(5)」へ続く


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