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訳と意味の理解(3)執筆A.Y.

文化的背景に目を向けよう(2)

その国特有の文化的な背景をもつ場合に、訳すことが困難なものは、単語だけに限りません。

例えば、"Good morning, Bill."という呼びかけのついたあいさつを、「おはよう、ビル」とすると日本語らしくありませんし、「ビル、おはよう」とすれば、日本語では、ビルが自分に気がつかないでいるときに注意を喚起するための呼びかけのように聞こえます。

とにかく日本語ではこのような呼びかけをあまりしないのに対して、英語では呼びかけをつけないと親しさが表れないという習慣の違いがあることに注意しなければなりません。

呼びかけについて言えば、日本語では「おまわりさん」「先生」「郵便屋さん」などと職業を表わすことばがすべて呼びかけのことばに使えますが、英語ではそうはいきません。

警官への呼びかけは、Come in, officer.(おまわりさん、入ってください)のようにofficerを使い、決してPoliceman!などとは呼びかけません。

学校の先生にはGood morning, Mr./Mrs./Miss/Ms. Brownのように、名前を言います。

ふつうはTeacher!という呼びかけはしません。

そのほかの場合も職業を呼びかけに使うのはWaiter!とかPotter!とか限られた場合です。

しかも、「先生おはようございます」という日本語のように文頭につけて*Mr. Brown, good morning.とすることはありません。

ある本の著者が、中学生のころ、意味がわからなくて困った英語にWhen the guests rise, the men help the ladies with their chairs.というような表現があったそうです。

直訳をすると「客が立ち上がるときには、男性は女性のいすを手伝う」となりますが、これでは、なんのことかさっぱりわかりません。

これは欧米のエチケットとして、テーブルにつくときには女性と男性が交互に座り、腰を下ろすときと立ち上がるときには、男性が女性のいすの背に手をかけて、いすを押したり引いたりして、女性が腰を下ろしたり立ち上がったりするときの手助けをしてやることをいっているのですが、このような表現は欧米の生活習慣がわからなければ意味の理解が不可能です。

このような表現を訳す場合には、説明的な意訳をしなければなりません。

また、他人に贈り物をする際の「つまらないものですが」という日本語も直訳のできない表現です。

これをThis is trifling/worthless thing.とかThis gift is nothing.などと訳したのでは、お客の英米人には通じません。

こんな場合には、Here's something for you.と言ってから、I hope you like it.(気に入っていただけるといいのですが)とかI thought you might like this.(お好きだろうと思いまして)などのことばを続けるのが英語的であって、表面的には日本語とはまったく違った内容のことを言わなければなりません。

会話表現のように、日常生活に密着したことばほど、訳すことが困難な表現が多いのです。

そしてそれらは、日英両方の言語の中でかなりの割合を占めているということをまず認識しておかなければなりません。


「訳と意味の理解(4)」へ続く


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